雇用保障のフラット化

http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/16af29654ee641ba6ae3f15bdc23338c


池田信夫氏のブログが、昨今の偽装請負をめぐる論議が、既存の法制度に引きずられた皮相なレベルの論議に留まっていることを指摘し、キャノン・御手洗会長の参考人招致が非生産的な吊るし上げの場になることを懸念している。特にこの一文が肝に思えた。 「厚労省の考える労働者保護とは、いま雇われている労働者の保護にすぎず、もっとも弱い立場にいる失業者は視野に入っていない」

厚労省の労働行政の中核は、労働基準法の対象となる、事業所に雇われた労働者を保護することにある。この場合、事業所に雇われる形式さえ整えば、雇用者となり、労働者としての保護を受ける。ここにはとりあえず正規であれ非正規であれ、労働法が及ぶ。しかし、それ以外の者はたとえ働いていても労働者として保護されはしないし、失業者になると、所得を得ているものが享受している保護からすらも排除される(失業給付がある場合は別だが)。

労働市場における雇用保障の格差は、ざっくりと、正規雇用者>非正規雇用者>労基法上の雇用関係を証明しづらい従属的請負やスポット派遣の人々>失業者、という範疇に分類できる。戦後の日本は期間の定めなく働いている正規雇用者を最大限に保護することが国民厚生的に効果があった。「正規雇用・男性・世帯主」が最大限の利益を享受できるようにする制度が高度成長のなかで、地下茎のように発達した。この標準モデルからこぼれ落ちた、非正規・女性・非世帯主は、雇用保障を含めた、さまざまな社会保障からはじきだされた。

当ブログを継続的に読んでいる人には、すでに耳タコのテーマだが、格差社会の問題の核心は、正規雇用にある人をとりまく制度の問題だ。それは奇を衒った表現でもなんでもなく、去年政府が格差の拡大を認める一因となった調査を発表したOECDからも、日本経済の課題として正規雇用の雇用保障の厚みが挙げられている。中高年層を中心とした正規雇用の雇用保護が若年層の失業(氷河期世代)を生んだのは明らかだ。正規と非正規の雇用保障をフラット化すること、柔軟な労働市場へと向かうこと、ついでに言えば失業給付を充実させることは、いずれもセーフティネットとしての役割をはたす「雇用保障」なのだ。


偽装請負と言えば、朝日新聞が告発キャンペーンをはったことで一気にメジャーな言葉となった。だがこの朝日新聞のキャンペーンが偽善に満ち満ちていていることは、朝日こそ我らの味方だと快哉をあげた非正規雇用者やワーキングプアにこそ、もっと知られるべきことだ。朝日新聞では法定期限で雇い止めすることを前提にした100%子会社の派遣会社を活用し人を使い捨てている。派遣ではない非正規状態で働く者も多く、労働者性をめぐって裁判になっているケースもあるし(ヘラルド朝日労働組合(IHT/Asahi Employees Union)が当事者のサイト)、今年の8月には、社内に偽装請負が少なくとも11例あったことを、会社として自社内の労組に認めている(週刊新潮9月27日号)。

裁判をしているヘラルド朝日の労組員らは交渉の過程で、「編集方針と労務方針は違う」という言葉を会社側から投げつけられている。かつて「ジャーナリスト宣言。」などと、広告会社に依頼してまでブランドイメージ向上をぶちあげた朝日新聞の裏の顔はそういったものだ。朝日で働く、派遣・委託先社員・嘱託・アルバイトといった非正規雇用者を合わせれば4分の1にも達している(前掲週刊新潮)。

ちなみにこの朝日新聞偽装請負キャンペーンに先日、第7回早稲田ジャーナリズム大賞が贈られている。この賞の選考委員には、鎌田慧氏、内橋克人氏といった「弱者の味方」としてジャーナリズムで活躍してきた人々も就任している。彼らが活動の初期の頃に身を寄り添わせた弱者は本物だったかもしれないが、今は労組員をマーケットにした癒しのジャーナリズムを展開しているようにみえる。案の上、この朝日の偽装請負キャンペーンは新聞労連ジャーナリスト大賞優秀賞も受賞している。

正規雇用の雇用保障を温存したままにせよと主張し、非正規雇用の困窮を憂えてみせる人は、本心では他者の貧困にたいして関心が無い偽善者に思える。「『丸山真男』をひっぱたきたい」の赤木智弘氏は、そういうサヨク、そういうエセリベラリストを告発している。彼の論考が朝日新聞の『論座』で発表されたのは、朝日の偉大なる鈍感さのなせるわざだ。

ひとこと言っておかなければいけないのは、キャノン・御手洗氏の請負法制に問題があるとの発言、ただそれだけは正しいとしても、会長を務める日本経団連ともども、彼は雇用保障に格差を設けるのを自明視している人物だし、キャノンの一経営者としても終身雇用至上主義者であって、格差を固定化する発想の持ち主としか思えず、労働市場全体を見渡した構想をもつ人物だとは、当ブログも考えていない。(次回、関連エントリー


(付記:先日、池田氏濱口桂一郎氏がブログ上でバトルになる出来事があったが、両ブログの愛読者である自分からみれば、二人の労働問題に対する認識の大枠と改革の方向性は、ほとんど変わらない。濱口氏のほうが弱冠、労組への期待が強く感じられる程度のことだ。今後の世の中の議論のためには、とても残念な出来事だったと思っている。もし池田氏がここを見ることがあるならば、濱口氏のこのエントリー(EU労働法政策雑記帳: 御手洗会長は国会で堂々と論じて欲しい)とそこにあるリンク先を読めば、共有できる感覚があると思う)

民主・長妻昭議員の代表質問

  • asahi.com:民主・長妻氏、異例の詳細質問 35分で70項目- 政治

http://www.asahi.com/politics/update/1004/TKY200710030353.html

  • 民主・長妻氏、前代未聞の質問80項目…さらに追撃も予告 : YOMIURI ONLINE

http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20071003ia23.htm

  • 長妻議員質問96連発で福田首相答弁詰まらせた…国会代表質問:スポーツ報知

http://hochi.yomiuri.co.jp/topics/news/20071004-OHT1T00088.htm

http://www.shugiintv.go.jp/jp/


国会の本会議で代表質問が始まり、民主・長妻氏の代表質問と福田首相の答弁の一部を聞いた。長妻氏の質問は国家のグランドデザインを問うような質問ではなかったものの、自らが調査した具体的事実にもとづいた質問を矢継ぎ早に繰り出していて、とにかく圧巻だった。上記新聞の見出しとなった質問数を見ると、いったい幾つだったんだよと、新聞の適当さに呆れるやら安心するやらしてしまうのだが、スポーツ報知が記事中、「代表質問では異例となる計96(スポーツ報知調べ)」とあるので、これが正確なのだと思う。質問数に焦点をあてた見出しにしようとなった時点で、確認作業をしているはずだから。一般紙はカウントした記者が同じテーマについての質問と理解したものは一つとまとめたのかもしれない。が、それにしても朝日と読売で誤差がある・・・まあ、よくわからなくなるぐらい長妻氏は速射砲のように質問していた。とにかくこの代表質問は、衆議院のサイトで議事録が文字起こしされれば、再読してみたい。衆議院インターネット審議中継のビデオライブラリでも見ることはできる。

長妻質問への福田首相の答弁は、一応改革とは口するし意欲は語るものの、ほとんど具体性のない答弁ばかりで、魂のこもった長妻氏の言葉とは、全く対照的だった。作文を読んでいるだけで、言葉が自分の頭で咀嚼されてないためか、真逆の趣旨の言い間違いをして謝ったりしていて、緊張感も感じられなかった。双方のやりとりからは、長妻氏ただ一人に(もちろんスタッフもいるのだろうが)、福田答弁の作成に関った官僚たち、ひいては現官僚機構そのものが敗北しているように思えた。質問の主要なテーマが「天下りバンク」など官僚機構のあり方を問う質問だっただけに、答弁は一層曖昧なはぐらかしに終始したのかもしれない。ただ一回の質問の機会で官僚機構の敗北など大げさな話だが、正義というか、存在の正当性のようなものが、長妻氏の側にあるのを感じさせる演説だった。スポーツ報知の記事によると、長妻氏は、福田首相所信表明演説が抽象論ばかりで約束がなかったため、「こちらも抽象論で質問すると、はぐらかされると確信した。そのため、具体的な数字、期限、対策をひとつひとつ尋ねるために綿密に準備」したという。具体的事実を突き止め突きつけるのは、キツイ作業だけれど魅力的なものだと改めて実感した。

労働政策研究・研修機構廃止の方向

  • 2独法廃止・民営化3・統合方針11 行革相「見直し全力で」(産経新聞) - Yahoo!ニュース

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070927-00000068-san-pol

 政府は26日、独立行政法人(独法)を整理合理化する一環として、科学技術振興機構(所管・文部科学省)、労働政策研究・研修機構厚生労働省)を廃止し、日本貿易保険経済産業省)や造幣局財務省)、国立印刷局(同)を民営化する検討に入った。主要事業が類似している11法人も統合する方針。整理合理化対象の独法の選定をさらに進めていく。
 廃止対象とした2法人は、国からの財政支援が予算全体の9割を超えているにもかかわらず、給与水準が国家公務員よりも高く「存続させる意味がない」(政府関係者)と指摘されていた。
(途中省略)
 現在101ある独法のうち、93法人が国から補助金などの名目で年間計3兆5000億円の支援を受けている。歳出削減に取り組んでいる政府は、8月に「真に不可欠な独法以外は廃止する」との基本方針を閣議決定した。しかし、独法が官僚の主要な天下り先になっていることもあり、8月末に省庁側が提出した独自の整理合理化案は、事実上の「ゼロ回答」で、官僚側の抵抗ぶりが浮き彫りにされた。
 渡辺喜美行革担当相は、政府の「行政減量・効率化有識者会議」の主導で改革を進めるとして、26日から所管府省のヒアリングを始めた。渡辺氏は会議の冒頭、「(省庁側の回答の)内容は極めて不十分だ。図らずも再任された以上、独法見直しに全力で取り組む。納得がいかない場合は何度も呼び出すつもりだ」と、12月の整理合理化計画の策定に向け強い決意を示した。


このニュースに対するはてブの反応をみると、廃止の候補として名指しされた2法人のうち、科学技術振興機構JST)には惜しむ声があがっているものの、労働政策研究・研修機構(JILPT)にふれているものはないようだ。真に労働者のための事業をやっていたなら、研究だけでなく研修事業などで多くの企業関係者とも接触があるはずだから、すぐさま廃止を惜しむ声があがるところだろうが、とりたてて惜しむ声もみあたらない。考えてみれば、労働関係の統計作成や政策提言は、内閣府厚労省、アカデミズムにおいて為されていることであり、労組系はじめシンクタンクもたくさんある。厚労省キャリアの天下り先としてて既得権化しているのは間違いなく、人材も官庁やアカデミズムから出向などで還流している者がいて、成果物も外部への依頼など多い。この組織の生態については、出身者の現ジャーナリスト・若林亜紀氏の『ホージンノススメ』(朝日新聞社)が詳しい。

http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/old/minutes/wg/2006/1011/item_061011_10.pdf

去年作られたこちらの資料によれば、平成18年度で予算は、運営費交付金・施設整備費補助金をあわせて、34億3500万円、職員は役員・常勤職員合わせて140人、これにプラスして、若林氏の本に書かれていたように(仕事もまるでなさそうな)非常勤職員がそこそこの数いるはずだ。このヒアリングにおいて厚労省は、労働政策研究・研修機構の必要性を、労使から利害関係を離れた立場から調査・研究・政策立案することで公正性・中立性がたもたれるからとしている。 たしかに今の時代ほど公労使の三者の関係から言えば、労使の立場を離れた「公」の視点の政策が必要とされている時代はないけれど、そういう価値自由な立場からの政策提言は、本来、社会全体の中ではアカデミズムに期待されているものだ。今後の帰趨を決める行政減量・効率化有識者会議のサイトは以下。独法改革といえば、経済財政諮問会議でも関連するWGが動きはじめていて、連携が気になるところ。

  • 行政減量・効率化有識者会議トップページ

http://www.gyoukaku.go.jp/genryoukourituka/index.html

http://www.keizai-shimon.go.jp/special/assetsreform/independent/01/agenda.html

気楽に更新すればいいのですが、自業自縛感が出てくるのがブログの妙といいますか。更新停止中も気になるニュースはちょこちょこあって、ネタをブラウザのお気に入りに入れたまま放置しているので、遡りエントリーをあげるかもしれません。でもほとんど自分用メモで、日付に意味はありません。少なくとも年内いっぱいはブクマでの情報のフォローが精一杯で、発信は少なくなる予定なのでご容赦を。

従属的請負あるいは従属的自営

(遡りエントリー)バイク便で働く人に労働者性を認める判断は当然のこと。軽急便のようなトラック輸送には、大工の一人親方と同様、労災適用の道があったはず。労働者性をめぐる判断は、現状では、働き方の外形的事実をとらえて従属的な働き方であるかどうかを判断している。いくらの収入があって収入の何割を特定の事業者に負っているかからも従属性を判断されてしかるべきではないか。厚労省HPに当該通達が見当たらないので以下全文引用。

  • asahi.com:請負契約のバイク便ドライバーも労働者 厚労省通達 - 暮らし

http://www.asahi.com/life/update/0928/TKY200709280320.html

バイク便会社と個人で請負契約を結んで働くバイク便ドライバーについて、厚生労働省は28日、一定の条件のもとに労働者と認める通達を全国の労働局に出した。バイク便ドライバーは労働者ではないとして労災保険が適用されない事例が相次いでいたが、労働者なら労働法令が適用され、労災保険雇用保険の対象にもなる。厚労省はバイク便会社にも、条件を満たすドライバーに労災保険などを適用するよう指導していく。
 常に交通事故の危険にさらされるバイク便ドライバーが、仕事でけがをしても労災が出ないのは問題だとして、連合東京が厚労省に労働者かどうかの判断を求めていた。
 厚労省は、バイク便ドライバーの実態を調査。(1)時間・場所を拘束され、仕事の依頼を拒否できない(2)仕事のやり方の指揮命令を受ける(3)勤務場所や時間を出勤簿で管理されている(4)仕事を他の人に委託できない――などの条件に当てはまれば労働者とみなすべきだと判断した。
 個人請負の問題に詳しい鎌田耕一・東洋大教授によると、90年代から、企業が社会保険料の負担などをきらい、労働契約を請負や委託に切り替える例が目立ち始めたという。「実態は労働者と同様で『偽装雇用』と言わざるを得ないケースも多く、きちんと労働法を適用する必要がある」と鎌田教授は話している。

  • バイク便:厚労省が「労働者」の見解 労災適用可能に - 毎日jp(毎日新聞)

http://mainichi.jp/select/seiji/news/20070928k0000m010188000c.html

 自転車やバイクで書類などを運ぶメッセンジャー(バイク便運転者)について、厚生労働省は27日、「労働者性がある」とする見解をまとめ、全国の労働局に通達を出す方針を決めた。メッセンジャーは、会社と運送請負契約を結ぶ個人事業主として働いているケースがほとんどのため、事故にあった際に労災保険も適用されていない。企業の間では、一般事務の仕事でも個人請負契約が広がっており、今回の通達はそうした状況にも影響を及ぼしそうだ。
 厚労省は、メッセンジャーについて、事務所や集合時間などがあることから(1)時間的・場所的な拘束を受け仕事の依頼を拒否できない(2)業務のやり方に指揮監督が行われている(3)勤務日、勤務時間が指定され、出勤簿で管理されている(拘束性がある)−−などと認定。「労働者性がある」と判断した。
 個人事業主は、大工など土建関連の業務に多い就業形態で、技術や道具を持ち個人で仕事を請け負う働き方で、仕事の依頼の拒否や仕事の進め方の判断などを個人の裁量で行う。労災は適用されず、共済組合をつくるなどして事故などに対応している。
 バイク便大手の「ソクハイ」(東京都)のメッセンジャーが今年1月に労働組合(上山大輔委員長)を結成、「実態は労働者なのに個人事業主なのはおかしい」と訴えていた。メンバーは、交通量の多い都心で荷物を運んでいるが、事故にあっても自己負担で対応しなければならず、雇用保険など社会保険への加入もできなかった。同労組によると、東京都内だけで数千人いるとみられるメッセンジャーたちは多少の違いはあれ、こうした働き方をしているという。【東海林智】

以下の3回の八代尚宏氏へのインタビューを中心とした日経BPの6回連続の連載は面白かった。特に今の労働基準法が全く現実離れしていて、裁量労働制で働いているマスコミや大学教員らの働き方が違法行為を伴なってしまっていることを指摘している6回目は、ホワイトカラー・エグゼンプション脊髄反射で反対していた人々は必読。良識派ぶったマスコミ人が今の労働基準法を厳守せよというのなら、自分が勤める会社に労働基準法が指示するとおりの残業代を請求することから始めてみろと言いたい。記事に対してないものねだりを言うと、八代氏のことを財界の代弁者であると疑念をもっている人が多いので、彼と財界人の目指す方向との違いがあるのかどうかを問いただす質問があるとさらによかったと思う。

  • 非正規社員の増加は正規社員の雇用を守るため - ワークスタイル - nikkei BPnet

http://www.nikkeibp.co.jp/style/biz/cover/bigbang/070903_4th/

  • 解雇ルールを法制化した労働市場が必要 - ワークスタイル - nikkei BPnet

http://www.nikkeibp.co.jp/style/biz/cover/bigbang/070905_5th/

  • 労働ビッグバンは時間をかけてでも実現すべきだ - ワークスタイル - nikkei BPnet

http://www.nikkeibp.co.jp/style/biz/cover/bigbang/070907_6th/


以下、個人的に目に留まった発言。

確かに、どの労働者を対象とするかで、「労働者の利益の最大化」の意味は変わってきます。ビッグバン反対の3人の方々は、すでに雇われている方々の利益を考えておられる。一方、働きたいのに働けない人たちや、再就職を望んでいる人たちを含めた、労働者全体の利益のことを、私は考えています。

■「整理解雇の4要件」全部に反対なのですか?
八代 いいえ。解雇のルールを法制化するときには、「整理解雇の4要件」のうちの2つ、「(経営者による)人員整理の必要性の立証」と、「解雇回避努力義務の履行」は不要ですが、残りの2つ、「解雇される人の合理性の立証(差別的解雇などの禁止)」や、「労働組合との協議義務の履行」項目は、むしろ強化すべきだと考えています。

また、あまり報道されていませんが、ホワイトカラー・エグゼンプションの対象者には、集中的に働いた後には集中的に休むように、無条件に年間104日間の休暇取得を法律で義務づけることがセットになっています。
労働時間規制を外すには、健康管理に関する規制が必要だからです。現状の労働基準法では、労使協定を結び、残業代としての割増賃金さえ払えば、1年間で休日を一切とらなくても合法になってしまいます。これも基準法の不備ですね。
健康管理のための年間労働時間の総量規制という考え方が盛り込まれているため、ホワイトカラー・エグゼンプションは単なる人件費節約にはならない。

来年度から従業員の雇用形態を非正規から正規に転換させた中小企業に奨励金を出すという。正規雇用を持続的に拡大できた企業に頑張ったで賞をあげるということで、恩恵を受けられる対象として5000人が想定されている。最近役所の政策は、インセンティブと言えば聞こえがいいが、ごく少数の限られた人間だけが恩恵を受けられる政策が多くなっている。なぜ厚労省は弱者を救済するとき、個人に金を投下せず、法人に、つまるところ業界に、金を投下するのだろうか。個人に金を投下しても業界は生まれず、天下り先が作れないからではないか。こういった既存の企業で実現される正規雇用に金を投下する政策は、わずかばかりの予算をつければ目の前の小さな正義は実現できるのかもしれないが、より広い視野で見た労働者のための政策が毀損されているように思えてならない。かつてグリーンピアの建設が乱発された愚策と印象はほとんど変わらない。日経BPのサイトでソリューションとデザインという言葉を対比させた宮田秀明氏の論考を読んだこともあって、最近の役所はメリハリをつける予算などと理由をつけては、無意識に役所の存続を狙ったその場しのぎの政策が打ち出され、大所高所に立つ政策が失われているとの感を改めてもった。

  • asahi.com:正社員への転換、奨励金で後押し 厚労省、来年度から - 暮らし

http://www.asahi.com/life/update/0830/TKY200708290332.html

 厚生労働省は08年度から、契約社員期間工ら有期雇用の労働者を正社員として採用した中小企業に対する奨励金制度を設ける。1企業当たり最大135万円を支給し、初年度で約5000人の正社員化を目指す。
 対象は、一定の経験年数があったり技能を習得したりした有期雇用の労働者を、正社員に転換することなどを就業規則で定めた中小企業。1人を正社員にすると35万円を支給し、その後2年以内に3〜10人を正社員化すると、1人につき10万円を支給する。
 また、厚労省は来年4〜5月、有識者らによる研究会で、有期雇用の労働者の正社員化に関する指針を策定。正社員への転換を進めている企業の事例集も作る。
 来年4月施行の改正パート労働法では、正社員より労働時間が短いパートについて、正社員への転換を進めることが企業に義務づけられた。だが、正社員と同じ時間働く有期雇用の労働者は同法の対象ではなく、法律とは別に奨励金や指針で正社員化を後押しする。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2007/09/post_436d.html

http://www.mhlw.go.jp/wp/yosan/yosan/08gaisan/syuyou.html
第2 成長力の底上げに向けた雇用対策・職業能力開発等の推進
第3 仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)と公正かつ多様な働き方の実現
*この3章に上記記事に関連する予算の記述がある。(再掲)とあるのは2章に記述がある。

(4)有期労働者の処遇の改善等 8.1億円
○ ガイドラインの策定や正社員転換支援を通じた有期労働者の雇用管理の改善 4.8億円
契約社員期間工等の有期契約労働者の雇用管理の改善を図るため、ガイドライン等を作成し周知するとともに、有期契約労働者から正社員に転換する制度を設け、正社員に転換させた事業主に対する助成制度を創設する。
(5)パートタイム労働者の均衡待遇確保と短時間正社員制度の導入促進 (再掲) 10億円

  • 年金問題が象徴する日本社会の大いなる課題 (宮田秀明の「経営の設計学」):NBonline

http://business.nikkeibp.co.jp/article/tech/20070831/133724/?P=3