求人広告偽装裁判

  • asahi.com:「求人広告の賃金虚偽」 沖縄出身者ら派遣会社など提訴 - 社会

http://www.asahi.com/national/update/0218/NGY200802180014.html

 愛知県豊川市の人材派遣会社と契約していた沖縄県出身の元従業員ら7人が募集広告と実際の賃金との差額の補償を求めていた問題で、7人は18日、賃金に関する詐欺行為などで精神的苦痛を受けたとして、派遣会社と派遣先の自動車部品会社を相手取り、慰謝料などとして計約3200万円の支払いを求める訴えを名古屋地裁に起こした。
 訴状などによると、7人は20〜30代の男女で、沖縄の情報誌で「月収31万円以上可」「賞与30万円以上」などとする派遣会社の求人広告を見て応募。06年5月〜07年2月に愛知に移り、派遣会社と契約して愛知県豊田市トヨタ自動車関連の同じ会社に派遣された。
 しかし、7人の月収は寮の家賃などを天引きした手取りで平均月9万〜18万円。賞与は最も高い人で額面16万円だった。
・・・(中略)・・・
 派遣会社は7人の差額請求は不当だとして、債務不存在の確認を求める訴訟を別に同地裁岡崎支部に起こしている。

求人広告における偽装、虚偽厚遇広告についての裁判がはじまっていた。職業安定法は、虚偽広告の場合、六月以下の懲役、三十万円以下の罰金を定めている。

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S22/S22HO141.html

第六十五条  次の各号のいずれかに該当する者は、これを六月以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。
・・・
八  虚偽の広告をなし、又は虚偽の条件を呈示して、職業紹介、労働者の募集若しくは労働者の供給を行つた者又はこれらに従事した者

原告らはブログを開設していたので、以前から注目していた。

  • 違法派遣会社と闘う会(仮)

http://sanwa0vs0union.ti-da.net/

求人広告を出稿した派遣会社は、300万円の解決金を今回の原告らに提示したことがあり、広告に虚偽があったことを認めている。求人広告に掲げられていた条件で働けば稼げたはずの金額と提示された解決金には大きな差があり、原告らが提訴への動きを見せると、派遣会社は先手をうって債務不存在の確認を求める裁判を起こした。これに対して原告らは、当初の要求を貫き、提訴に至ったようだ。

この裁判は、裁判の中身そのものは損害賠償請求額をめぐる攻防になってしまうだろうが、日本の労働市場の不透明さを告発するという意味では、最近の労働裁判の中でも、かなり重要な裁判だと思う。注目に値する労働裁判はさまざまあるが、例えばいわゆる偽装請負をめぐる裁判に思うことだが、たとえ企業の行動が、労働法制の本来の立法趣旨に反しているとしても、すでにある労働法制の枠組みにおいては、合法の範囲内と判示されて終わるのではないかというケースがみられる。現在の労働法の枠組みそのものが制度疲労に陥っていることを問題提起するという意味においては意義深い裁判なのだが、訴えた人間の司法的な救済は、はかれない可能性がある。しかも裁判は既存の労働法制を手がかりに遂行されるので、改変期にある労働法制に求められている新たな価値観とは対立する、時代遅れの法理を強化してしまう主張をするしかないジレンマがある。

この裁判は、当事者が「派遣会社と闘う」と掲げているので、非正規労働者が提起して注目されているさまざまな裁判と、一見よく似ている。格差社会の底辺において不当な処遇が渦巻いているといった、わかりやすい文脈で解釈されかねない裁判ではある。派遣先企業の責任も問題にしているので、いわゆる偽装請負の責任を問う裁判とも似ている。しかし人材派遣会社の悪徳ぶりといったありがちなイメージとは別に、この裁判にはもっと普遍的な問題提起がある。企業の求人広告に嘘の情報が蔓延していて、それが当たり前のように流通してしまっている社会は、まともと言えるはずがない。日本社会ではこれまで、就労したときに募集時と実際の労働条件が違っていてもシカタガナイで済ます人間が大半ではなかったか。

弱者は不当な現実に直面しても、声をあげ不正を告発すれば、さらに窮地に陥る可能性がある。雇用者と被雇用者の関係は対等でなく、職業移転に伴なうリスクは、労働市場流動性の低い日本では、依然として高い。そのリスクにつけこむ企業行動は、そこここにあって、こういった虚偽の求人広告だけでなく、不透明な労働市場流動性を萎縮させていたがために、サービス残業を強いたり、社会保険料を負担しなかったりといった経営姿勢が、従業員からも、行政からも、見逃されてきた。求人広告に虚偽があれば、本来は詐欺と呼ぶべきで、そういう不正が市場から取り除かれるのは、単純に言って望ましい。嘘をつくのはおかしいと当然の声をあげたのが、この裁判のスタートだ。


追記:原告らが属する組合の抗議行動に参加した人のブログを発見。

  • 酒井徹の日々改善 : 「求人広告は虚偽」 トヨタ系労働者、派遣会社提訴

http://imadegawa.exblog.jp/7515123/