ある製造業派遣企業

http://www.ohmynews.co.jp/news/20080507/24671

───人材派遣ビジネスのイメージが悪いことについてはどう思いますか。
 パートやアルバイトなど、いわゆる非正規雇用は現在約1700万人いると言われています。製造業の派遣は約100万人ですから、割合は高くないのですが、格差社会の象徴と受け止められているようです。派遣先が、日本を代表するような大企業ばかりで、目立っているということもあるかもしれません。

───そもそも、トヨタ九州の副社長を退任後、テクノスマイル社長としてビジネスを拡大している動機は何ですか。
 トヨタ九州時代は、今とは逆の立場でした。非正規雇用の人材を使う立場でしたから。その時、態度も能力も変らないのに、非正規だからといって賃金が安いことに対し、もう少し何とかできないかという問題意識がありました。派遣でもしっかり育てて、能力を認めてもらえれば、しっかり稼げるようにしたいと思っていました。

───業界では「2009年問題」への対応をどうするかという声も出始めているようです。
 改正労働者派遣法によって、製造現場への派遣が2006年秋から始まりました。受け入れ期間が最長で3年ですから、その後、どうするかが注目されています。同じ工場内でも派遣先を変えれば問題ありませんので、異動させることで対応していくように顧客とも話し合っています。すでにその対策はできています。
 巷では、派遣を直接雇用に変更し、管理は派遣会社に任せるやり方をするところも出るのではないか、と言われています。しかし、これがある意味「偽装的」な面がありますので、うちはやりません。業界では今後、様々な問題が起こる可能性はあります。

ジャーナリスト・井上久男氏によるトヨタ系企業・テクノスマイル・馬見塚譲社長へのインタビュー。4回もの連載の最後の部分。2009年秋に、製造業で人材派遣を活用している企業で、直接雇用申し込み義務が一斉に表面化する問題について語っている。期限後も同じ派遣労働者でも工場内で配置転換すれば、問題は生じないとする見解を語っている。同じ工場内で派遣先を変えるなどという対応は形式的なものに終わるのが目に見えている。これは「偽装雇用」と呼ぶに値する働かせ方を今後も継続して活用すると宣言しているのに等しい。この発言は先日、判決が出た松下プラズマディスプレイ裁判の高裁判決の趣旨とは対立する。
一方この企業は、派遣先のトヨタが常用雇用する人材の供給先にもなっている。派遣先トヨタの雇用形態はなるべく影響を受けないかたちで人材をリクルートする装置として機能していることが見てとれる。トヨタという特定の派遣先の人材供給に貢献する限りは、自社に熟練度の高い人材がとどまる必要性がない企業であるわけだ。今後こうしたタイプの企業が常用雇用化に貢献する人材育成企業とメディアでもちあげられていく可能性がある。上掲記事もそのニュアンスが強い。だが実質的には、元請け企業の人材の選別過程が外部化された現象にすぎないのではないか。人材育成企業として積極的に評価できるかは、トヨタ系以外の企業に常用雇用者を提供するつもりがあるかどうかで真価をはかりうる。こうした製造業派遣企業は、通常の派遣業にみられる派遣元−派遣元の関係とは、かなり異なる関係性の中で活動していることに留意しておきたい。