財政投融資とはなんだろうか(2)

90年代、世間がバブル崩壊後の不況にあえぐ中、財政投融資額が激増した特殊法人は、バブルの絶頂を謳歌することとなった。この状況を反転させるため、2001年にようやく財投改革が行われる。その改革では、それまで郵貯簡保資金や年金資金が財務省の資金運用部に全額、自動的に預託されていた全額預託義務が廃止された。これにより財政投融資に莫大な資金が自動的に流れ込む仕掛けは一応なくなった。

そして財政投融資が行われていた先の、公団や公庫といった特殊法人(財投機関と称す)が独自に財投機関債と呼ばれる債権を発行して資金調達する仕組みが導入された。市場原理にもとづく資金調達を強いて、非効率な特殊法人の運営を是正させる目的があった。資金調達をはかるには市場の信用を得ることが必要で、経営内容の公開が進むことも期待された。ただ、すぐには制度を移行させることは難しいので、2007年度末まで、財務省財投債政府保証債)を発行して資金を集め、特殊法人などに貸し付ける経過措置がとられている。この間は、この財投債を郵貯が引き受けている。


小泉政権郵政民営化は、郵貯簡保の資金の流れを変えさせ、財政投融資に自動的に流れ込むのをストップさせる改革を目指した。財政投融資の入口部分たる郵政事業の官の論理に浸かった非効率性を排すのが、改革の本丸だとされた。


郵政民営化は「入口」の改革[2004/10/21]第160号(小泉内閣メールマガジン
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/yuseimineika/mm/041021mm-lion.html


確認するが、2001年までは全額預託義務によって郵貯簡保資金は、財政投融資を通して、その運用先として特殊法人地方公共団体に資金が回る仕組みだった。それが廃止され、郵貯簡保資金は原則自主運用となり、市場を通じて国債社債を購入し運用することとなった。これが出口の改革だった。

振り返ってみれば、郵政事業民営化という入口の改革は、特殊法人改革といった特別会計に連なる壮大な出口改革に比べれば、スケールの小さなもので、パラレルに等置して語られるべきものごとではない。しかし、アリの一穴を穿つように、郵政から官の非効率性を撃ち続けた小泉政権の執念には一分の理が合ったとは言える。


先に見たように、現在、特殊法人は、財投機関債を主、財投債を従として資金調達している。この資金調達部分こそ財政投融資の入口であり、この債券発行をどうするのかこそ入口部分の改革にあたる。先にリンクした昨年12月の財務省財政制度等審議会の報告書では、2001年来の改革の成果が書かれている。改革がスタートして以来、財政投融資はフローでピーク時の96年、40.5兆円から、2004年には2分の1、20.5兆になり、ストックでピーク時の2000年の417.8兆円から2004年には335.5兆円に着実に減少しているのだと、かなり自画自賛する内容になっている。だが本当だろうかとすぐに疑問がわく。改革をはじめて5年ほど、特殊法人が厳しい状況にあるとは聞くものの、経済の規模が2分の1、3分の1になるようなリストラが吹き荒れているとは聞いたこともないからだ。

この政府の報告を真に受けることが出来ない理由は、政府保証がつく財投債が発行額も調達全体に占める割合が増えている(15P)という事実で反証すれば足りる。政府の報告書は、出てくるグラフに財投債部分が反映されておらず、インチキだといわれても仕方ないシロモノなのだ。この報告書をまとめた分科会には新聞社の論説委員らも名を連ねており、官僚の演出にお墨付きを与えているようにみえる。彼らは国民に真の情報を伝えるのが役割なのに、すっかり取り込まれている。


財政投融資の現状が必ずしも劇的に改善していないことを、日銀の資金循環統計を用いて明らかにしているレポートが、下記サイトにあった。これをみると財政投融資の額は、フローでもストックでも減ってはいるものの、それほどでもなく、依然として郵貯らによる引き受けも多いし、国債や財投機関債、財投債の割合が増えつつあるのがわかる。激変緩和措置としての財投債発行は2007年度で停止する予定だが、はたして実行されるのか。2007年度末の財投債の行方は要注意だ。

財政投融資改革の経過について|経営研レポート 2006|NTTデータ経営研究所
http://www.keieiken.co.jp/monthly/2006/0607-8/index2.html