移民受け入れは難じているうちが華か

1月某日。外国人労働者の受け入れをめぐるEUでの取り組みを聞く機会があった。EUの移民政策の専門家から、現在のEUの実情を聞きとったうえで、今後の日本の移民政策への示唆を得るという趣向だった。EUは各国の政策に細かな違いはあるものの、80年代以降、移民受け入れがしだいに進み、多文化主義があたりまえのことのようになった。しかしこの10年ほど、その政策が急速に変わり、社会の結束、一体的な価値観の強化をはからなければならない事態になってきている。新鮮な視点を得られたと思ったのは、多文化の尊重がかえって孤立を生むことがあるのだ、という表現。社会の統合度が弱まると、文化の島宇宙化が進む。コミュニケーション手段の発達が、文化的ルーツへのアクセシビリティを高め、二世・三世世代ほど、文化的ルーツへのアクセスを求める面もあるというのだった。移民第一世代は雇用の存在を前提に移住するが、二世・三世は必ずしも雇用が確保されるわけではない。そのときの心理的拠り所として、文化的ルーツの再発見へと向かうときがある。


こういった最近のEUの移民政策の動向は概ね日本にも伝わってきていることではある。こういった変遷から、もしかしたら日本の招聘者側は、移民受け入れに慎重に、といったEUの専門家からの助言を期待していたのかもしれない。なぜなら日本の研究者によるEUの移民受け入れ策の調査も紹介されていたが、コスト面がかなり強調されたものだったから。しかし、話がそういう方向へ向かうことはなかった。フランスの専門家は、本国で暴動などが起こっていることにふれつつも、移民受け入れを恐れるな、と述べた。移民受け入れは、もしコストがかかったとしても、全体的に見て豊かさをもたらしてくれるポジティブな源泉である、と強調された。フランスといえば、出生率がついに2に回復したニュースを目にしたばかりである。少子化がすすみ人口動態がEU以上に急激に変わりつつある日本は、コストを恐れる余り、閉じていくばかりでは、ジリ貧になる気がする。そのことのほうを恐れるべきではないか。今後はアジア諸国が日本よりも早いぐらいのペースで少子化高齢化へ向かうので、日本が人を受け入れないでいるうちに、アジア域内では各国事情に応じてEU的に人の移動が進んでいくかもしれない。そのとき日本が完全スルーされる国でなければいいのだが。


Yahoo!ニュース - 時事通信 - 出生率、寿命とも伸びる=少子化対策奏功か−仏
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070119-00000014-jij-int


Yahoo!ニュース - フジサンケイ ビジネスアイ - 労働力に移民不可欠 伊ファッション業界 揺れ動く管理政策
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070116-00000013-fsi-bus_all