実態は残業代ゼロ制ではなくて、定額報酬制

Yahoo!ニュース - 時事通信 - 法案提出の考え強調=残業代ゼロ制で柳沢厚労相
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070109-00000075-jij-pol

柳沢伯夫厚生労働相は9日の閣議後記者会見で、ホワイトカラーの一部を残業代の支払い対象から外す新制度「日本版ホワイトカラー・エグゼンプション」について「懸念を十分払しょくするような法律的組み立てを固め、いいものをつくっていく」と述べ、25日から始まる通常国会に法案を提出する考えを重ねて強調した。
同制度をめぐっては、野党ばかりでなく与党内からも「賃金抑制や長時間労働を正当化する危険性をはらんでいる」(丹羽雄哉自民総務会長)などと否定的な発言が続いている。

この記事にも印象操作を感じてしまう。見出しはもちろんのこと、ホワ・エグを語るときの「ホワイトカラーの一部を残業代の対象からはずす新制度」とする枕詞に印象操作を感じるのだ。この文言そのものは決して間違ってはいない。しかし「働いても残業代が支払われなくなる」と強調しようとしていて、新制度の眼目は、「残業代を含めた「定額報酬制」」で働く者を労働法制のなかに位置づけることにあるのを、伝える姿勢がない。新聞記者はじめメインストリームのマスコミの人間は相当な収入を残業代から得ているわけで、自らの利害も絡むため、こういう視点からしか報じるつもりがないのだろう。柳澤大臣による労働法制改正法案の提出を目指す見解は、1月5日にも示されている。このときの会見で柳澤大臣は公務員の仕事ぶりを見てきた経験から、次のように語っている。


厚生労働省:平成19年1月5日付閣議後記者会見概要
http://www.mhlw.go.jp/kaiken/daijin/2007/01/k0105.html

要するに、公務員の世界においても、企画・立案の仕事をする人たちとルーティンワークをする人たちとが同じ労働時間法制の中にいることなども問題ではないかということを、行政改革を担当している当時から強く意識をしておりました。これは、民間といえども同じであって、要するに、企画・立案をする仕事というのは、これは、ルーティンの仕事を時間でもって仕事の成果を測って、それに対して報酬が払われるということとは全く違うというふうに私は思っています

まったくもってまっとうな主張で、仕事の未来はその当然その方向に向かう。ハイリスク・ハイリターンの職とローリスク・ローリターンの職に分けられていくことになる。ただしそれぞれの職が固定化されず流動性が保たれ、個々人が選好やライフコースによって試行錯誤可能になることを目指すべきであり、そのための条件整備の議論にこそ集中すべきなのだ。それが「再チャレンジ」可能な社会であり、条件整備が貧困からの救済になる。職が分けられていくと言っても、今回の改革は年収を中心に導入ラインを決めようとしており、職業や業種を区別せず、それらの貴賎の意識も生まないようになっていて、倫理的な平等志向もうかがえる。いま業種別・年齢別の賃金などを集計する統計はあるものの、同一企業内部にいる者同士においてすら、報酬の実態は不透明だ。ホワ・エグが導入されれば、それらが一部なりともオープンになり、それが社会のオープンさにつながる。いま進められようとしている労働法制の改革は、個々人の働き手の振る舞いに直結した、構造改革の総仕上げであり、労働者の権利をお題目に、時間で労働価値を測る働き方に固執する勢力は、既得権に拘泥する抵抗勢力と呼ぶにふさわしい。


追記:このエントリーちょっと言葉足らずかも。ホワ・エグは経営側の要請に沿う側面もあるので、制度の導入に当たっては健康・福祉の措置などを確保し、経営側に制裁も含めた事後規制の厳格な規律を課すべきです。そのための条件整備に議論が向かうべきではと思うのです。