専ら派遣こそ派遣労働を貶めている元凶

(前日分からつづき)民主党の派遣法改正案には専ら派遣の規制が盛り込まれている。

http://mainichi.jp/select/today/news/20080419k0000e010070000c.html

企業が人件費抑制のため人材派遣の子会社を作り、親会社や関連会社に限定して派遣するなどの「専(もっぱ)ら派遣」も規制する。現行制度が「派遣先拡大の努力が客観的に認められない」などとあいまいな規制にとどまっているのを見直し、「提供する労働者の5分の4以上を特定の1社に派遣してはならない」と明確化する。

常用雇用と非常用雇用の格差という面でみるなら、専ら派遣こそ雇用格差の象徴的事例だ。同一事業者内で活用する人材を募っておきながら、企業が常用雇用の場合に負担すべきコストを回避するためだけにダミー会社を設立している。専ら派遣は、派遣業一般が、労働市場における人的資源の流通への貢献を目指しているのとは(たとえそれが建前だったとしても)、根本的に異なる業態だ。企業から見て人材を低コストで使い捨てられるというだけでなく、社会政策の面から見ても、社会制度上負担するべきコストの露骨な回避でもあり、人権侵害の装置のようなものだ。その違法・合法の判断基準は、以下のようなあいまいなものでしかなかった。

http://tutida.livedoor.biz/archives/50329618.html

専ら派遣は、終身雇用が前提で、かつ女性労働を副次的なものとみなしてきた日本の労働市場が生み出した、あだ花だ。民主党案は「提供する労働者の5分の4以上を特定の1社に派遣してはならない」などとしているが、この数字は何の根拠によるのだろうか。専ら派遣のような業態を追認するだけの数字になってしまうのではないだろうか。少なくとも専ら派遣で働いている労働者のほうを向いて出された数字ではなく、専ら派遣を活用している企業のほうを向いて出された数字に思える。今後、定年退職した人材を受け入れる入れ物として拡大する可能性があるが、雇用差別の温床以外の何者でもない。


以下の記事で、派遣法の分野で著名な脇田滋氏が、専ら派遣は日本にしか見られない仕組みだと指摘しているのを読んだ。

  • 東京新聞:子会社→親会社に低賃金労働力 “違法”野放し『専ら派遣』 あいまい禁止基準:社会(TOKYO Web)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2008041302003352.html

脇田滋龍谷大教授(労働法)の話 専ら派遣は外国には存在しない日本独自の仕組みだ。企業は安上がりに派遣労働者を長期確保する目的で系列派遣会社を利用している。だが、常用雇用の代替として派遣労働を利用しないことが労働者派遣法の基本であり、これに反する専ら派遣は許されない。非正規雇用を拡大させ、雇用の不安定を招く重大な要因となっており、厳しく規制する必要がある。

この記事で、金融・保険業界では6割以上が、さらに日本郵政や大手アパレルグループといった日本を代表するような企業が専ら派遣を活用していることが出てくる。日本的雇用を色濃く残す企業で、専ら派遣のような差別的雇用が横行しているとみていいだろう。この東京新聞の記事は、専ら派遣をとりあげたはいいものの、問題企業を大手アパレルグループとぼかして記述している。日本のマスメディアの限界を知らしめてくれる記事だ。武富士の広告引き上げを覚悟で批判記事を書き続けた中日新聞と同系列なのに、このヘタレぶりはなさけない。


最後に、確認のためのリンク。派遣法改正をめぐって政府の論議は、以下の「今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会」で進められていた模様。近しいテーマで「有期契約労働者の雇用管理の改善に関する研究会」というのも始まっている。
http://www.mhlw.go.jp/shingi/other.html#syokuan


ともかく、働き方に規制を加えることで、格差是正をうたうのは、手段として間違っている。政治は、社会保険の適用に必要な雇用期間が現行2ヶ月になっているのを、1ヶ月にするといったふうに、セーフティネットのあり方を変えることが、格差是正だと気づくべきだ。手を突っ込むべき第一は、事業者のあり方でなく、国の制度のほうだ。働き手にとって、日雇い派遣のような働き方を利用したいという声はあったとしても、専ら派遣のような働き方に甘んじたいという声はないだろう。専ら派遣のような、派遣労働の名を借りた身分差別の固定化・再生産の仕組みこそ、最大の規制対象でなければならない。今のポピュリズムに充ち満ちた流れに抗して何か書いておかないと、日雇い派遣で働いているような当事者が、本当に報われない。労働関係のイベントがさまざまに行われる今の時期、ひとつの労働運動のつもりで、一文を書いてみた。