日雇い派遣原則禁止論の皮相さ

いま進みつつある派遣法改正論議がおかしすぎるので、思うところを書いてみる。 民主・社民・共産の派遣法改正案が出そろい、すべて日雇い派遣禁止が主眼になっている。公明も日雇い派遣禁止を提唱していて、自民にも同調者は多いと思われる。見たくないモノにフタをして見ないようにするだけの、人材派遣=ピンハネ悪徳業種の発想の域から出ない、その場しのぎの派遣法改正が、これまでと同じように繰り返されてしまう、と自分は見ている。

http://www.dpj.or.jp/news/dpjnews.cgi?indication=dp&num=13148

  • 社民党OfficialWeb┃政策┃労働者派遣法改正案の方針と骨子

http://www5.sdp.or.jp/policy/policy/labor/labor0804.htm

http://www.jcp.or.jp/akahata/aik07/2008-04-11/2008041105_02_0.html

派遣のような業態は、短期のものほど需要と供給の両サイドをつなぐ役割に社会的ニーズが高じる。短期の急務の需要を満たすからこそ、派遣なのだ。長期の派遣を許容すれば、派遣の活用が直接雇用より低コストの場合、搾取の様相を帯びていく。日雇い派遣のような登録型の短期派遣の形態は、適切に運営されれば、社会的な存在理由は十分ある。問題はその“適切”の中身であって、そうした派遣で働く労働者が一方的に不利益を被らない労働者保護の仕組みをつくることが重要だ。


日雇い派遣原則禁止論のおかしさは、濱口桂一郎氏がウェブ上では孤軍奮闘の感で指摘を続けている。自分は共感しているが、現在こうした意見は圧倒的少数派になってしまっていると思う。

http://homepage3.nifty.com/hamachan/21seiki02haken01.html

そもそも「日雇い派遣」の何が悪いのだろうか。フルキャストグッドウィルが悪いというのは個別企業の問題である。「日雇い」も「派遣」もそれだけでは禁止されていない。それが組み合わさるとなぜ禁止しなければならないほどの悪さが発生するのか、説得的な論拠は示されていない。生活の安定という観点からすれば、直用であれ派遣であれ日雇いは究極の不安定雇用である。そして、我々は今まで、そういう不安定な日雇い就労を何ら制約することなく、存在することを認めてきたのである。

濱口氏が従来から主張している、業者規制の強化でなく派遣先責任の拡張による労働者保護の強化に主題をおき法改正を目指すべき、という意見も傾聴に値する。

  • 解説委員室ブログ:NHKブログ | 視点・論点 | 視点・論点 「労働者派遣システム再考」

http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/400/7872.html


民主党は雇用期間2ヶ月以下の派遣をなくせと提案している。これは健康保険・厚生年金の適用対象期間が影響しているようだ。2ヶ月以上の雇用義務を課しておけば、社会保険がカバーできるという発想らしい。しかし現行では2ヶ月で期限をきって、そうした社会保険の適用を回避して非常用雇用の募集を繰り返すことは合法だ。実際にそうしている企業は存在する。また1ヶ月ごとに雇用契約書を繰り返し出させることで社会保険を回避する手口もある。民主党案は、そうした働かせ方があることを踏まえながら、発想したものと思えない。

http://www.dpj.or.jp/news/files/080423koyo.pdf

日雇い派遣という働き方が不安定就労の根本原因ではなくて、労働市場に参加しているにもかかわらず、長期に単一の企業に勤務することを介してしか恩恵に浴すことが出来ない社会保障の仕組みが強固にできあがってしまっていること、そうした社会制度のありようが、就労の不安定さ、ひいては貧困を生み出している要因だ。長期雇用を前提としない働かせ方を活用すれば、社会制度上かかってくるコストを合法的に回避できるようになっているからこそ、企業は日雇い派遣のような非常用雇用を増やしてきた。それは企業経営の当然の選択の帰結だ。

企業が非常用雇用を活用する際に要求される社会制度上のコストが低すぎることが問題なのであって、そうしたことを見据えていない議論は、皮相的と言わざるをえない。だからこそ短期の派遣を規制するのだというかもしれないが、では他の短期の非常用雇用者が社会保険の適用外のリスクにさらされることは放置しておいていいのか?たとえ日雇い“派遣”が減ったとしても、日雇いに等しい不安定就労が増大するのであれば、意味がない。

日雇い派遣がクローズアップされたのは、ネットカフェ難民などとマスコミに名づけられたホームレス状態の人々の就労形態として注目されたからだろう。なぜ日雇い派遣でしのぐ人が増えてしまったのか、政党も、労組も、マスコミも、その大勢は、踏み込んだ考察をしていると思えない。日雇い派遣の増大は貧困の原因ではなく、結果だ。一度貧困に陥ると這い上がるのが難しい、社会制度上のセーフティネットのありように根本原因がある。日雇い派遣の増大という現象だけを強制的に抑え込んでも、彼らの口にする格差是正の名目には、長期的には全く役に立たないだろう。(タイトルを変えてつづく)