対日経済審査報告書2008の件(1)

+報告書の肝心の部分を報じず歪んだ情報を伝える新聞報道について

当ブログにとって「翼よあれがパリの火だ」的に唯一の希望(?)と思える文書について、やっぱり無視できないので更新します。
OECDの対日経済審査報告書が公開(報道解禁)されたようだ。一気に記事が出ている。ざっと見たところ財政再建への提言部分をクローズアップさせた記事が多いが、財政再建は生産性の向上がはかられるほどに容易になるのであり、生産性向上が達成されるためには労働市場改革が必須だ。ダイヤモンド・オンラインで辻広雅文氏が書いていたように、日本社会が最優先で取り組むべき課題は、財政問題でも社会保障問題でもなく労働市場改革だ。今回の報告書をその切り口からとりあげた記事を共同通信が書いていた。

http://www.47news.jp/CN/200804/CN2008040701000326.html

 経済協力開発機構OECD)は7日、2008年の「対日経済審査報告書」を発表した。日本の労働市場で格差が広がっていることに懸念を表明し、正社員と非正社員の給与格差の是正や職業訓練の機会拡大を促した
 高齢化による労働人口の減少に対応するには、女性が働きやすい環境をつくることが重要だとも指摘。労働市場の改革は日本が経済成長を持続するための重要課題だと位置付けた。
 政府はデフレ不況の時期に社会人となり、正社員として就職できなかった若者の職業訓練や、中高年の再就職の支援策を打ち出しているが、国際的にも格差是正策の一層の強化を迫られた形だ。
 審査報告書は、日本では雇用全体に占める非正社員の比率が3分の1を超えていると指摘。低賃金で働き、短期間で転々と職を変える人が増えていると強調。日本の労働市場は「公平と効率の面で深刻な懸念を引き起こしている」との見方を示した。

同じ共同通信の記事が、中日新聞に配信されていて、見出しが変わって報じられていた。前半は上記記事と同じで、記事後半部も以下のように公開されていた。

http://www.chunichi.co.jp/s/article/2008040790133413.html

(前半上記引用と同じ)
 正社員として就職できず、企業内で仕事を学んだり、技術を身につけたりする機会がなかった若者らを対象にした職業訓練制度の拡充を具体的な対策として挙げた。
 働く女性を増やすためには(1)保育施設を増やす(2)長時間労働で家庭生活に支障が生じないように労働基準法の運用を改善する(3)共働き家庭を優遇する税制−などが必要とした。
 報告書は、財政再建も重視。歳出削減を徹底すると同時に、歳入を増やすための税制改革の必要性を強調し、消費税率の引き上げや地方税の簡素化などを求めた。
 構造改革では、小売業、運輸業、エネルギー分野などの規制見直しを促した。(共同)

「日本の給与格差に懸念」との中日新聞の見出しは、共同の記事の二文目、「正社員と非正社員の給与格差の是正や」の部分にヒントを得てつけられた可能性が高い。これを一読したとき、OECDは正社員・非正社員の「給与」の格差を問題にするだろうか?と疑問が浮かんだ。給与格差は両者の比較の指標にはなりえるものの、政策的に介入して是正するのは難しく、そこをOECDがわざわざ問題として指摘すると思えなかったからだ。そんなときは、ソースを確認してみよう、ということで対日経済審査報告書の要旨がOECD東京のサイトにアップされていたので見てみた。(つづく)