ベーシック・インカムでは貧困を救うのに足りない

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池田氏の論を受けて小飼弾氏が、政策としてのベーシック・インカムを提唱している。彼もアルファ・ブロガーなので、彼がごろがいいというだけでプッシュするベーシック・インカムに惹かれる人が出てくることに違和感を感じるのでひとこと言っておきたい。ベーシック・インカムは最低限の所得保障を万人に保障するという構想だ。万人に平等なスタート地点を保障するかにみえる構想は、機会の均等をイメージさせ、直感的に、魅力的にうつる。しかし、ほんの少し考えればわかることだが、支給された最低限の保障をのちのちの生活のスプリングボードとして有効に活用できる人間もいれば、有効に活用できない人間も出てくるのは必至だ。ベーシック・インカムを実現するにはこれまでの社会保障の分配を再編成する必要があるが、いったん分け与えた所得を食い潰し、失敗してしまった人を想像すれば、ことはそう簡単でないことがわかるはずだ。

私見だが、そういった無限後退モラルハザードを避けるためには、就労へのインセンティブ社会保障のなかに埋め込む以外にない。従来見られた一方的な給付型の社会福祉から、就労インセンティブを内在させた社会福祉の要請は、レーガンサッチャー時代のネオリベラリズムを経て以降の欧米で、議論されてきたことで、政策的にも実現されてきている。それは、負の所得税に近い概念で、個人的にプッシュしたい言葉で言えば、給付つき税額控除と呼ばれる制度だ。収入が高まるほど税額控除が段階的に適用される一方で、一定の所得水準に達しなければ、所得補填の給付がなされる。この制度はついに9月半ば、政府税調が導入にむけた検討を表明し、民主党も積極的に研究をはじめている。

いま議論されるべきは、一市民として最低限保障されるべきトータルな社会保障とは何かということであり、そのとき就労という人との係わり合いを通して貧困を解消していくインセンティブ社会保障の中に埋め込むことが重要だ。最近ちくま新書で刊行された、二つの貧困に関する書、現代の貧困―ワーキングプア/ホームレス/生活保護 (ちくま新書)ルポ 最底辺―不安定就労と野宿 (ちくま新書)はいずれも、貧困とは経済的な困窮だけを指すものではなく、人と人との関係性の喪失に着目して理解されるべき概念であると説いている。社会保障に就労インセンティブを持ち込むことに対し、ときとして、働かないでもいいじゃないかという価値観で対峙しようとする論者がいるが、彼らの多くは関係性の貧困にまで目が届いていない。

今の日本では正規雇用者として組織に帰属することで得られる雇用保障が、制度的に手厚すぎる。経済原理として、所有から利用へと価値を生む経済行為が変化している社会では、個々の労働者も(組織への)帰属ではなく遂行から成果を獲得する存在へと移行するのが自然だ。今は正規雇用と非正規雇用の雇用保障の壁が、個々の経済主体の試行錯誤(遂行)を阻害するほどに大きい。日本の労働生産性が、先進国で最低水準にまでなってしまったのは、労働市場、のみならず産業の面から見ても市場全体が硬直的であるからだろう。

正規雇用を享受している者たちは、非正規雇用者や貧困者の悲惨を憂えるのならば、なぜ自らの身を振り返って考えることをしないのだろうか。賃金を平準化しろとなどとは言わない。労働法および社会保障の適用対象として現に格差があるのを、公正なものに是正しようと呼びかけるだけだ。先のエントリーで書いた雇用保障のフラット化、給付つき税額控除、この二つが、格差と貧困の問題を論じるときの突破口になると信じている。