人事院勧告のお手盛り

人事院勧告に6年ぶりにプラス勧告が出された。これに準じて、国家公務員の給与が決まっていく。優秀な人材を募集するためと理由をつけて若年層の給与を引き上げ、中高年層は据え置く。この姿勢をメリハリを付ける、などと評価するかのように表現していた記事もみかけたが、人事院(総裁・谷公士)の発想は、あるべき勧告のサボタージュに思える。

以前から言われていることだが、読売新聞の論説委員人事院勧告のベースとなっている民間賃金の調査が現実離れしていることを指摘している。人事院勧告のベースとなっている民間賃金の調査は、従業員50人以上の規模の各事業所の正規雇用者の賃金で、非正規雇用者は含まない。最近中央官庁にも、全労働者に占める割合と同じで、3人に1人の非正規雇用者がいることが、労組による発表で明らかになったが、そういう労働市場の現状を全く無視した調査をやっておいて「民間準拠」などという。

例えば、国税庁の民間給与統計調査を見れば、1年間勤続者の平均給与額の推移は、97年に467万円でピークがあったのち、長期に下げる傾向にある。国民の家計がどうなっているかという意味では、総務省の家計調査年報によって一世帯あたりの可処分所得の推移がわかるが、勤労者世帯で見て、これも97年にピークがあった後、下げる傾向にある。国民の給与や家計が全体として長期収縮傾向にあるなかで、規模の大きな企業の正規雇用者の賃金が上昇傾向に転じたからといって、そういった勝ち組が享受している賃金だけを参考に、国家公務員の賃金を決められたらたまらない。

この論点は、小泉政権のブレーンもかねがね指摘していたが手をつけられず。

http://www.21ppi.org/japanese/message/200503/050314.html

http://www.jinji.go.jp/kyuuyo/index.htm

  • 平成19年民間給与実態調査の概要

http://www.jinji.go.jp/kyuuyo/minn/minnhp/minngaiyou/19_minkyuuyo.pdf

  • 公務員給与引き上げ 政治判断が必要 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)

http://job.yomiuri.co.jp/library/column/li_co_07081001.cfm

 労働市場が大きく変化し、派遣社員、パート、アルバイトなど非正規の雇用者が、全従業員の3分の1を占める。雇用の格差は、賃金の格差でもある。
 こうした人たちは、今年の人事院勧告をどう受け止めただろうか。
 人事院が、国家公務員給与の引き上げを政府に勧告した。プラス勧告は、6年ぶりのことだという。
 国家公務員の給与は民間の給与に準拠して決める「民間準拠」が原則だ。企業間、地域間に落差はあっても、総じて景気回復によって民間の賃金が上昇している。引き上げ勧告になるのは当たり前だ。
 公務員の給与引き上げの是非を検討するため、賃金を調査するのは、正規の従業員50人以上の事業所だ。全労働者の3分の1にも上る非正規雇用者は対象にならない。
 非正規の雇用者と正規の雇用者の給与には、平均2倍以上の格差がある。景気回復の恩恵も、正規の雇用者に比べ、非正規雇用者にはあまり及ばない。
 大概の非正規雇用者は無論、賃金格差の改善や、正規雇用を望んでいる。
 それがないまま、正規雇用者の賃金上昇だけが公務員給与に反映される仕組みに、非正規雇用者はますます格差意識を強め、公務員を見る目も厳しくなっているのではないか。
 天下り問題などで公務員への批判が強い。公務員の総人件費削減に取り組んでいる最中でもある。勧告通りに引き上げるかどうか、政府の政治判断次第だ。その際、非正規雇用者の視線も考慮するべきだろう。(論説委員・上村 武志)(2007年8月10日 読売新聞)

http://job.yomiuri.co.jp/news/jo_ne_07080904.cfm

人事院谷公士総裁)は8日、2007年度の国家公務員一般職給与(行政職)について、月給を平均1352円(0・35%)引き上げ、期末・勤勉手当(ボーナス)を0・05か月分上げて4・5か月分とするように内閣と国会に勧告した。月給の引き上げは、初任給を中心に若年層に限り、中高年層は据え置きとする。人事院が引き上げを勧告するのは2001年以来6年ぶり。
 勧告が実施されれば、国家公務員の平均年収は前年度より4万2000円(0・7%)増え、639万8000円(平均40・7歳)、平均月給は38万4893円となる。年収が前年度より上がるのは9年ぶり。
 人事院が実施した民間企業の給与実態調査では、景気回復に伴う有効求人倍率の向上などにより、昨年と比べて初任給が大幅に増加した。またベースアップを実施した企業が多く、今年4月の公務員給与は民間企業を0・35%(1352円)下回った。一方、政府は昨年度から5年間、公務員の基本給を平均4・8%下げていく給与構造改革を実施しており、今回は若年層に限定して給与を引き上げる形のプラス勧告とした。
 また、勧告では、高度な専門性を持つ公務員が特定分野を担当する専門スタッフ職制度を08年度から導入することを求めた。
 専門スタッフ職は審議官、局長へと昇任するライン職と異なり、情報分析や政策研究、国際交渉などを長期間担当する。天下り問題の要因と指摘される早期勧奨退職の慣行を改める狙いがある。専門スタッフ職の給与体系は1〜3級の3段階に分け、勤務時間は時差勤務制とする。
 安倍首相は8日夜、人事院勧告を実施するかどうかについて、「国民の理解が必要だと思う。その観点から財政状況などをよく見て判断したい。結論ありきではない」と記者団に語り、完全実施に慎重な姿勢を示した。
人事院勧告の骨子
▽民間との給与格差を埋めるため公務員の月給を平均1352円、0・35%引き上げる。
▽月給引き上げは若年層に限り、中高年層の給与は据え置く。
▽期末・勤勉手当(ボーナス)を0・05か月分引き上げ、4・5か月分とする。
▽専門スタッフ制を2008年度に新設する。
◆早期勧奨退職
 中央省庁の次官や局長などの幹部ポストに就けなかったキャリア官僚に50歳ごろから退職を促し、外郭団体や民間企業に再就職させる人事慣行。次官をトップとするピラミッド型の人員構成を維持するのが目的。政府は勧奨退職年齢の引き上げを進め、現在は平均で約55歳となっている。
国の歳出増は450億円程度に
 財務省は8日、人事院が2007年度の国家公務員一般職の給与を6年ぶりに引き上げるよう勧告したことを受け、勧告が完全実施された場合、国の費用負担が450億円程度増えるとの試算を発表した。
 政府は、国家公務員の人件費の削減を進めており、07年度予算では、人件費を06年度当初予算より377億円減らしている。勧告が完全実施された場合、新たな歳出増となる。
 財務省は、地方公務員の給与も同様に引き上げられた場合、地方自治体の負担が930億円程度になる試算も示している。(2007年8月9日 読売新聞)