H19年経済財政白書

http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/news/20070807it03.htm

 内閣府が7日公表した2007年度の年次経済財政報告(経済財政白書)は、格差是正のため低所得者層を支援する新たな制度が必要だと提言した。

 白書は、日本経済が成長して所得水準が上がっても、格差は拡大傾向にあると分析。格差是正の具体策として、所得税を減額する「税額控除」と社会保障給付制度を組み合わせ、低所得者は税金よりも給付金が多くなって税率がマイナスとなる「負の所得税」などを挙げた。

 経済財政白書が格差問題を取り上げたのは前年に続いて2回目。日本経済は戦後最長の景気回復が続いているが、正規社員と、パートやフリーターなどの非正規社員との賃金格差が大きくなっている。白書は、格差は先進国共通の課題として、欧米諸国の経済成長と格差の関係などを分析した。

 経済学の一般的な学説では、経済成長で工業化が進むと、初期段階を除けば、国内の格差は縮まるとされる。しかし、日本は市場経済型の米国や英国、カナダと同じく、1980年代以降は経済成長と同時に格差が拡大しており、学説から外れていると白書は分析した。一方、フランス、ドイツや、高福祉国家の北欧諸国は、成長が進んでも格差はほとんど拡大していなかった。

 白書は、各国の統計をもとに、社会保障制度と税金によって、高所得層から低所得層にどれだけ所得が移っているか、所得の再分配効果を調べた。高福祉・高負担で知られるスウェーデン所得再分配効果は36・5%だった。日本は02年の統計で23・5%だった。

 そのうえで、欧米諸国が採用している格差是正策として、
〈1〉課税と社会保障制度の見直しによる所得再分配機能の向上
〈2〉社会保障給付と所得税制を組み合わせた新たな仕組みの導入――の二つを示し、
日本でも「政策的な何らかの対応が重要だ」と指摘した。

  • 平成19年度 年次経済財政報告−生産性上昇に向けた挑戦−

http://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je07/07p00000.html
http://www5.cao.go.jp/keizai3/2007/0807wp-keizai/setsumei03.pdf


ついに負の所得税のコンセプトが政策課題にのぼり始めた。社会保障と就労インセンティブと税制をかみ合わせる政策は、給付付き税額控除の呼称がベストだと思われるが、以前から当ブログは勤労所得税額控除という呼称で注目していた。はるか昔に、当ブログがはてなキーワードに登録したが、さっぱり言及されない。自分が書いた解説文を引用してみる。

勤労によって得た所得に対して一定率で税額控除(この額だけ所得税額を軽減)を与える制度で、アメリカのEITC(Earned Income Tax Credit)に由来する。一般的に控除額が所得税額を上回る場合に超過分が行政当局から支給されるため、実質的に一定の所得に達しない者に補助金を与える公的扶助制度として機能している。税額控除額を低所得層から高所得層にかけて、逓増領域・定額領域・低減領域と段階的に設定することで、控除が定額領域に至るまでは所得誘因が働くことになり、労働意欲が高まる制度設計となっている。イギリスでの同様な制度としてWFTC (Working Family Tax Credit)。同様の概念を指す言葉として、給付付き税額控除。


給付付き税額控除については現在、東京財団で森信茂樹氏らによって研究会が進められている。解説文に書いた、税の逓増領域・定額領域・逓減領域にぴったりの台形の図が出てくる。

  • 【第三回 研究会議事要旨】東京財団 - TKFD - THE TOKYO FOUNDATION

http://www.tkfd.or.jp/research/news.php?id=46


下記の山田久氏の新刊が給付付き税額控除に言及しているかわからないが、同様のコンセプトをもつことは確実。amazonの同書の解説から引用。

ワーク・フェア―雇用劣化・階層社会からの脱却

ワーク・フェア―雇用劣化・階層社会からの脱却

ワークフェア(Workfare)」とは、もともと米国で社会保障給付をする際に就労義務を課すことを意味していた。その後、各種就労支援も含む政策を指すようになり、欧米で「成長と福祉の両立」において成果を挙げている。わが国でも、このコンセプトを、
1就労形態の多様化、
2就労可能性を高める職業訓練の重視、
3福祉受給対象者に対する就労インセンティブの給付、
4勤労者の仕事と育児・家事の両立支援、
5「同一価値労働・同一賃金原則」への収束
――の5本柱により拡充したものを、新しい経済社会の基本理念とすることが求められている。


山田氏の属する日本総研のマクロ経済研究センターが、世界経済と日本経済の動向を踏まえ、参院選後の政策運営の方向性を提言している。

  • 忍び寄る経済「デュアル化」の危機とその阻止に向けた戦略

http://www.jri.co.jp/press/2007/jri_070802-2.pdf


そして上記のようなコンセプトを労働市場改革の局面で実現するのが、EUで注目されているフレキシキュリティとなる。以前、フレキュシキュリティーキーワード登録したが、さっぱり言及されないので、これも少し前に、フレキシキュリティで登録し直した。

雇用政策として(1)柔軟な労働市場、(2)手厚い失業保険制度、(3)積極的労働市場政策(職業教育の充実)の3点を核とするアプローチ。2006年現在において、EU各国がこの雇用政策の実現を目指しているとされる。労働市場流動性社会保障の双方を追及することで、グローバル化の進展に対応可能な産業構造の転換と生産性の向上を目指す。OECDではこの3点を「ゴールデン・トライアングル」と表現しており、先進的にこの雇用政策を追求した例としてデンマークが挙げられる。フレキシキュリティー(Flexicurity)はフレキシビリティー(Flexibility)のFlexとセキュリティー(Security)のcurityを合わせて作られた言葉。 カタカナ書きでは、フレクシキュリティ、フレキシキュリティーと表現する人もいる。


下記ブログが今後の日本の社会政策を考える上でフレキュシキュリティが重要なヒントになることを考察している。

  • toxandriaの日記、アートと社会 - 2007年春、ドイツ旅行の印象[ローテンブルク編]

http://d.hatena.ne.jp/toxandoria/20070723

(プロローグ)『中間層の没落』に歯止をかけるため、参院選後に見据えるべき二つの視点
(1)維持可能な「年金財政」と「所得代替率」の具体的シナリオを早急に設計し、公表すること
(2)日本社会に適応した「積極的労働市場政策」(デンマーク・モデル=フレキシキュリティ等を範とする)を具体化すること


さて就労インセンティブを税額控除によって実現しようとするコンセプトはよいことづくめに思えるが、なかなかそうもいかない。負の所得税の先見性を指摘した池田信夫氏が、官僚が職の喪失を恐れて制度の導入に抵抗すると指摘している。たとえば社会保障としてベーシックインカムの導入を求めているような人々は、財源確保の非現実性もさることながら、官僚機構の肥大化という面からも、そのような構想が有害であることに気づくべきだろう。

http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/855d2fe7c6f54dda2eeb83eab2e0178e