一人親方

先月判決の出た裁判でどうしても気になったもの。個人で仕事を請け負って働いている下請けの大工は、労働基準法上も労働者災害保険法上も、労働者性を認められないことが最高裁で確定した。判決は「労務の提供」と「仕事の完成」が判然と分けられるものと解しているが、従属的な自営業者としての下請けという存在をまるで理解してない。仕事中に指を切断してしまった人間が労災認定されなくていいのだろうか。過労自殺者が労災認定されるときがあるのに比べると、明らかに違和感がある。不可抗力に見舞われた者が救われなくて、自殺者が救われてしまうのは、おかしい。訴えている者の権利が現行法で護られないときには、和解を強く勧告するか、現行法の不十分さを何らかのかたちで論及すべきではないだろうか。 いま個人で請負で働いている人は皆こうして働き手としての権利を享受できない労働法番外地で生きている。労働局に相談しても、地域の商工組合に経営者としての加入を問い合わせてはどうですかと丸投げされて終わりだ。大工のような一人親方には労災保険法上の特別加入の制度があるが、任意であるうえに、この制度は下請けとして有名な個人貨物運送業者にすら適用されない。 現状ではリスク対処のシステムが労基法上の労働者及び労働者を雇う法人にばかり整備されていて、従属的に働いている場合が圧倒的な個人の下請けほど、リスクに備えることができない。この状況を変えるには、SOHOなど個人請負が盛んな諸国の働き手の権利保障のシステムが参考になるはず。

  • 最高裁第一小法廷(平成17(行ヒ)145)6月28日

http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070628130249.pdf
かかわったのは、泉徳治、横尾和子、甲斐中辰夫、才口千晴の各裁判官。

http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/wadai/news/20070628k0000e040043000c.html

マンション建設現場で内装工事中に右手指を切断した山形県の大工の男性(55)が労災認定を求めた訴訟の上告審で、最高裁第1小法廷(泉徳治裁判長)は28日、男性側の上告を棄却した。小法廷は「男性は、労災保険法が対象とする『労働者』とは言えない」と述べた。男性側の敗訴が確定した。
 特定の会社と明確な雇用契約を結ばずに働く場合も多い大工の労災を巡る初の最高裁判決。小法廷は「男性は、特定の会社の指揮監督下で働いていたとは言えず(自営業者のように)自分で工法を選び出来高払いで報酬を得ていた」と判断した。男性側は「雇用契約は結んでいないが、内装工事会社専属で働く労働者だった」と主張していた。労災保険法には、自営業者向けに「特別加入」という任意制度があるが、男性は加入していなかった。
 判決によると、男性は98年、出稼ぎ先の神奈川県内の現場で、右手指3本をのこぎりで誤って切断。労災支給を認めなかった藤沢労働基準監督署を相手に不支給処分取り消しを求め、1審・横浜地裁と2審・東京高裁で敗訴していた。【高倉友彰】

  • 東京新聞:下請け大工の労災認めず 『労働者に該当しない』:社会(TOKYO Web)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2007062802027968.html

出稼ぎ先の工事現場で、建設会社の下請け作業中に指を切断した山形県の大工の男性(55)が、労災保険の適用を認めなかった藤沢労働基準監督署(神奈川県)を相手取り、休業補償などの支払いを求めた訴訟の上告審判決が二十八日、最高裁第一小法廷であった。泉徳治裁判長は「元請け業者の指揮監督下で仕事をしたとは認められず、労災保険が適用される労働者には当たらない」と述べて、男性側の上告を棄却した。男性側の敗訴が確定した。
 訴訟では、下請けの大工として出稼ぎに来ていた男性が、労災保険の対象となる労働基準法上の労働者に当たるかどうかが争点となった。
 同小法廷は、元請け業者からの指揮や命令、報酬支払いなどの実態について検討。(1)工法や作業手順は自分で選択できた(2)作業時間も自由(3)報酬は出来高払いで労務に対する対価ではなかった−などの事実を指摘し、「労働基準法上の労働者には該当しない」と結論づけた。
 判決によると、工事は神奈川県茅ケ崎市のマンション新築工事で、竹中工務店(東京)などの共同企業体が受注。内装工事は下請けに出され、男性らが作業にあたった。男性は一九九八年十一月、作業中に電動のこぎりで右手の指三本を切断。労災保険法に基づいて休業補償などの支払いを同監督署に請求したが、翌年三月に不支給とした。
 男性は二〇〇三年、不支給処分の取り消しを求めて提訴。一審の横浜地裁は〇四年三月、「労災保険法上の労働者とは認められない」と訴えを退けた。二審の東京高裁もこれを支持したため、男性側が上告していた。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2007/07/post_a0bb.html

  • 夜明け前の独り言  水口洋介: 労働者性に関する紛争(2)−手間請け大工労災事件、新国立劇場合唱団員地位確認事件

http://analyticalsociaboy.txt-nifty.com/yoakemaeka/2007/07/post_a66b.html

http://www.zenkensoren.org/news/15news/news118.html

http://takasr.com/tokubetukanyu1.html