こんなブログでも雇用問題を扱うとそれなりのアクセスがあります。これまでいろんな方々に絡んでいくのが正直怖かったりしたのですが、黙っていたら自分の考えも整理できないし、世の中の議論がまともな方向に向かうこともないと感じます。所詮無力な遠吠えに過ぎませんが、年頭に今年は労働改革の年だと勇んで宣言したわけで、少しコメント力をつける試みをしてみましょう。

そこで、規制改革会議の再チャレンジワーキンググループ・労働タスクフォースの「脱格差と活力をもたらす労働市場へ」と題する意見書についての見解を、前回に続けて書いてみます。今回の意見書をとりまとめた方々も公正な自由競争が可能な労働市場を目指すということに異論はないはずです。しかし今回の意見書の決定的な欠点は、日本の労働市場を強く規定している年齢差別的慣行の問題点を指摘する視点がないことです。労働法制を主要な検討課題としている意見書ですから、採用における年齢差別禁止の厳格化という法制度の問題として焦点化できたはずなのに、されていません。今国会で制定される改正雇用対策法でも年齢差別規定は依然として生ぬるく、公務員を適用除外するなど、政府として率先垂範の姿勢がみられません。ちなみに民主党は公務員の年齢差別禁止を打ち出した法案を提出しましたが、閣法が衆院を通過したので廃案となる運命です。*1

  • Doblog - Joe's Labo -フリーターが採用されないわけ

http://www.doblog.com/weblog/myblog/17090/2615563#2615563
城繁幸氏が書いているのは、日本の主流な企業(勢力においても数においても)が、年次管理による賃金体系を維持し続けているということであり、それは裏返せば、そういった企業に勤め、生み出す成果とは関係なく、年功によって享受できる利益をもつ正規雇用層が、依然として社会の主流派だということです。これら正社員が享受する雇用保障は、各種保険などの福利厚生、ボーナス、退職金など、給付として直接的にその人間に利益をもたらすだけでなく、それらの費目ごとに税額控除があったり、法人優遇型の税制や補助金政策を間接的にかみあわせることで、幾重にも重層的に制度的に保護されているわけです。これが正社員に対する雇用保障の厚みを生みます。この部分が先進国でまれにみる雇用保障であるとOECDに指摘されているわけです。労働法制の問題は、社会保障の問題とつながっており、さらに掘っていけば税制の問題に行きつくでしょう。


正規雇用層は自らが保持している既得権を手放なす動機はもちません。そもそも多くの人々は何が既得権なのかすら自覚がないでしょう。格差社会の進行が話題になるとき、本質的な問題は、正規雇用者と非正規雇用者との間に「社会制度的な」格差があることであって、賃金の格差が問題ではありません。このことを隠蔽した議論を展開するのが、労働組合系の人々の主張であり、世に蔓延するジャーナリズムの論調です。

  • 連合|規制改革会議の「労働法制見直し」意見書に関する談話(事務局長談話)

http://www.jtuc-rengo.or.jp/news/danwa/2007/20070522_1179828732.html

  • 全労連:格差と貧困を拡大する労働者保護規制の緩和ではなく働くルールの確立論議こそ喫緊の課題−規制改革会議「労働タスクフォース」の報告の撤回を求める(談話)−

http://www.zenroren.gr.jp/jp/opinion/2007/opinion070524_02.html

連合の談話では雇用が二極化しているとあります。労働組合系の人々は、ひたすらに非正規雇用正規雇用にするべきだ、という論調を展開します。これらの労働組合にとり込まれている非正規雇用者による労働運動も、非正規雇用者が正規雇用に引き上げられることを目指します。確かに目の前の「もの言う非正規雇用者」は正規雇用になれば救われるかもしれません。現行法のなかでの闘争なのだから、おおいにやればいいでしょう。しかし個別の労働者に手厚い雇用保障が実現されても、そのことで他の新規参入を求める者が排除されることになるのは、少し考えれば明らかです。

「もの言う非正規雇用者」の主張の核心は、よりよい条件での雇用への新規参入の機会を求めていることにあります。そして、もの言わぬ、組織化されない(できない)非正規雇用者あるいは失業者も、よりよい条件での雇用への新規参入の機会を求めています。本来はそのことを政策形成に携わる者やジャーナリズムに携わる者は、いちど引いた視点から理解し、発信しなければいけないのです。努力すれば報われる労働環境、公正な新規参入機会のある労働市場の構築こそが求められています。

*1:「労働者の募集及び採用における年齢に係る均等な機会の確保に関する法律案」http://www.shugiin.go.jp/itdb_gian.nsf/html/gian/keika/1DA186E.htm