3月某日。内閣府経済社会研究所の主催で開かれた、国内外の労働市場にみられる二極化の問題を検証するシンポジウム。日米の研究者が両国の労働市場で進む二極化について説明するものだったが、いずれの研究者にも、グローバル化の進展は二極化を生むひとつの要因であるにすぎない、とする視点が共有されていたと思う。先進国に格差や貧困が生まれている原因は、人口動態の変化やライフコース(結婚をするか、何歳でするかといったことなど家族にまつわることの影響が大きい)の変容、技術的進歩や労働組合の弱体化といった複合的な要因をみる必要がある、とされた。


とりあげられた話題で、日本の事業者の「意識」のふたつの例が気になった。経団連が昨年実施したアンケートによると、企業はフリーターの正規雇用に9割近くが消極的、との数字が出ている(ただしアンケートに回答した企業は、アンケート実施企業中、4分の1にすぎないが)。またJLPTによる調査でも、正社員とほとんど同じ仕事をしている非正社員の賃金水準の格差を縮小する必要性を認めない事業所が6割にのぼることが示された。これらは既存の枠組みの中にいる事業者たちが、まるで従来のあり方を変えようとしていないことを物語っている。最近の、新卒だけを大量採用をしている流れは、またぞろ場当たり的な人事管理が繰り返されているということを示している。


シンポジウムの後半で、佐藤博樹氏が、若年労働者の教育機会を正規・非正規間で比較すると、それぞれ6割、4割程度であり、スキルの実態に極端な差があるわけでない、と紹介していた。つまり、正規・非正規間の格差は、事業者らの先入観によってつくり出され、かつ固定化されてしまっている面がある。このことはもっと社会にアナウンスされないといけない。また、守島基博氏によると、製造業に見られるような正規を大事にする従来型の企業ほど、非正規に対する格差(差別性と言い換えてもいいはず)を保持し続ける傾向がある、とのことだった。これは、それらの企業が非正規を「男性・正規・世帯主」型の従業員の補完物としか考えていない人事管理をしているからだろう。守島氏は非正規人材をコストダウンを目的として用いても、さほど企業業績との関連はみられない、とも指摘していた。


格差の是正といえば、すぐ非正規をどうするかと問題をたてて論じられるけれど、正規の問題を問わなければならないし、正規・非正規と単純に二分できない雇用区分ごとの多様な格差があることに留意すべきなのだ。格差の発生と、雇用の異質性とは、区分して考えられなければならないし、格差と不公正さも、分けて考えられなければならない。ゲイリー・バートレス氏が米国で進展する二極化への対応策として、いくつかのセーフティネットの方策を挙げたのと同時に、柔軟な労働市場の必要性を説いたのに、日本側の論者が後者の論点に反応しなかったのは、どうしたものかと思った。