アジアの持続的発展を妨げるものとは

■人口大変動でアジア減速へ (ニュースを斬る):NBonline(日経ビジネス オンライン)
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20070215/119150/


上記記事は、これからの世界の人口と経済をシミュレーションしたグラフが充実していて、面白い。記事中のグラフから小峰隆夫氏が語っている以外の視点で印象に残った点をあげると、総人口の予測においてEUと日本はともに漸減するが、実質GDPEUが右肩上がりで伸ばすのに対し日本は漸増しかできない、と予測されているところだ。


この記事そのものは、生産年齢人口に対して、子どもと高齢者を足した人口の比率(従属人口指数)が減っていく時を人口ボーナス(恩恵?)、上がっていく時を人口オーナス(負荷)と定義づけ、経済全体の活力の行方を予測し、アジア全体の急激な少子高齢化のトレンドを指摘して、日本の少子高齢化を相対化する視点を提供している。日本の人口は2004年に12779万人でピークを迎え、人口減少社会に突入している。ふつうはここに一大転換があった見るわけだが、1990年にはすでに従属人口指数が、人口オーナスに転換していたと読みとっているのが興味深い。


昨年ある集まりで、これから日本の生産年齢人口は、今後15年間で1000万人減少するという報告を聞いた。人口予測の中位推計をもとにした話で、これから年平均0.7%ほどの減速が生じるというのだった。なぜ記憶に残っているのかというと、話したのが官僚出身の経済学者の方で、これから毎年年平均0.7%の経済成長を達成すれば、現在の豊かさを維持できるので、少子高齢化は恐れるに足らず、外国人受け入れはコストがかかるばかりで必要なし、と結論づける報告だったからだ。数字合わせの発想にかなり疑問符が浮かんだので覚えているのだ。


個人を基礎とする社会政策への転換を望む当ブログも、人口減少・少子高齢化の問題は、個人の選択の問題として放置しておいてよいとは思わない。上記記事のグラフで、EUが日本と違って実質GDPを右肩上がりに伸ばしていくと予測されているのは、EU合計特殊出生率の減少にはブレーキがかかっていて、生産年齢人口の稼働率が日本のようには下がらない、と予測されているからだろう。EUは子どもをもつ家庭の育児費用に着目し、直接的な経済支援をする家族政策が充実している。これがおそらく合計特殊出生率の維持につながっている。


ひるがえってアジアは、これから人口オーナスを続々と迎えるのに、国家による子育て支援というのは、まだまだ未整備なのではないか。人類学者のエマニュエル・トッドは、女性の活動が制約を受けやすい権威主義的社会(≒家父長制的社会)で出生率が低いことは明らか、と指摘していた。女性差別的な慣行が温存され、家族政策も遅々として進まないならば、アジア全体の持続的発展は難しい。


アジアの人口動態が急速に高齢化に向かうことについては、下記リンクも上記記事と同じ問題意識にたつ報告をしている。将来的に、高齢者とくに女性が貧困に陥る可能性を警告している。
■人口ボーナス論からみた中国の経済発展の軌跡と展望:RIM|日本総研シンクタンク
http://www.jri.co.jp/RIM/2006/01economy.html
■中国の少子高齢化社会保障:RIM|日本総研シンクタンク
http://www.jri.co.jp/RIM/2006/05age.html