隠れた予算、特別会計(2)

(2月4日よりつづき)一般会計よりも特別会計の規模がはるかに巨大であることをみてきた。特別会計は「特別」の目的で独立して会計しているのを理由として、各々が独自の特定財源をまかなう仕組みをもっている。各々の特別会計は、所管する関係省庁を頂点とし、一般財源からの繰り入れや独自の特定財源によって予算を獲得し、旧特殊法人などを通じて業界に影響を及ぼす。最近、道路特定財源のうちガソリン税一般財源化が話題になったが、あのように関係省庁は所管する特別会計に税金が自動的に流れ込む仕組みをさまざまに持っている。その仕組みひとつひとつが利権となり、天下りの温床となる。これを削られると困ると官僚たちは抵抗するし、官僚と利害の一致している業界もまた抵抗する。


特別会計は、もともとは「特別」な事業を目的として、受益と負担の関係がわかりやすいように、事業区分の整理を名目に、昭和30年頃から発達したという。それがあれよあれよという間に、霞ヶ関の「特別」な縄張りを築き上げ、地下茎のように発達してしまった。だが、いま書いているのは政府の話であって、同様の論理で地方自治体がミニ「特別会計」を発達させているのは、想像に難くない。 その歴史的展開の一例として、先の道路特定財源の発達を時系列に一覧できる下記のようなサイトを見つけた。道路整備費用の負担を理由に、ガソリン税軽油取引税、自動車従量税といった国税地方道路譲与税、石油ガス譲渡税、自動車取得税などといった地方税が、付加されてきたことがわかる。すべて道路特定財源という特別会計に流れ込む仕組みとして発達してきた。これを冷静に見れば、特定の省庁が、「特別」の目的を理由に、いかに予算を拡大してきたかがよくわかる。


■知って得する世の中講座 道路特定財源の「一般財源化 」ってなんだ?(全トヨタ労働組合連合会
http://www.fine.or.jp/shittoku/200604/kouza/index.html


さて、なぜ当ブログは国の予算の問題をつらつら確認しているのか。余っている金はないか、もっと弱者に給付をせよ、という単純な発想の話ではない。今の日本が生産性が向上せず、格差社会を生む大きな原因に、税制の構造問題があると考えており、税金の行く先を確認しておくことが重要だと思うからだ。 公共事業は国の一般会計の公共事業費だけで実行されるわけではなく、道路整備特別会計、治水特別会計、港湾整備特別会計、都市開発資金融通特別会計から事業費が流れ込む。 また働き手が所得控除して徴収される各種保険料は、税金とは名目上違ってはいるが、実質的に税金と同じで強制的に徴収され、厚生保険特別会計国民年金特別会計、船員特別会計労働保険特別会計に流れ込む。政府の社会保障費は、国民に直接給付されるかにみえて、特別会計に注入されている。


こういった特別会計は、もう一度書くが、31もある。それぞれに根拠法があって、運営する事業体があって、民間企業がつらなる業界があって、それらで働く公務員や企業人がいる。さきに省庁を頂点とする構図を書いたが、それぞれを得意分野とする族議員がいるのはもちろんだ。 労働保険特別会計に入る雇用保険料ですら、ごく最近でも、私のしごと館のような赤字垂れ流し事業に流用されていたことから考えると、他の特別会計がどれほどの無駄と非効率を生んでいるのか、空恐ろしい。小泉政権の大きなテーマだった道路公団民営化とは、道路整備特別会計の改革の一環だったことがわかった。高度成長期以後の特別会計の発達は、政府にパラサイトする事業体を増殖させたとみえる。ちょうどこの高度成長期以後、期を一にするように発達してきたのが、終身雇用・年功序列の企業パラサイト型の雇用形態である。横並びの総パラサイト社会がバブル突入まで続き、それが破綻の憂き目をみた。 特定の目的を理由に発達してきた特別会計という脂肪、特定の目的を理由に発達してきた様々な正規雇用保護のための脂肪、いずれ、それらの共依存の関係を解いていきたい。