朝まで生テレビ視聴

テーマは格差社会。見る前の期待値が低かったせいか、議論は思ったほど悪くはなかった。最後に松原聡氏が「雇用のモビリティを高めること」にふれてくれたし。あとは年齢差別と新卒一括採用・年次管理型社会を指摘する論者がいればよかった。いちいち突っ込み始めるととまらなくなるので、少し事実の確認をしておきたい。 自民党大村秀章氏、片山さつき氏が、昨年出たOECDの日本の相対的貧困率、先進国中2位という調査は、集計のもととなったデータが以前と変わったのでたまたまああなっただけだという趣旨の発言をした。たしかに2006年のOECD調査は、従来、全国消費実態調査(総務省)のデータをもとに集計していたのを、国民生活基礎調査厚生労働省)のデータを用いて集計している


■平成16年全国消費実態調査について(総務省
http://www.stat.go.jp/data/zensho/2004/01index.htm

厚生労働省:平成17年 国民生活基礎調査の概況
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa05/index.html


全国消費実態調査は全国の約6万の世帯に対し、調査員が調査票を配布し、細かな家計簿を記帳してもらい、回収する。所得だけでなく消費支出もチェックしている正確さがあるが、森永卓郎氏が指摘していたように、細かな家計簿記帳ができる時間的余裕のある世帯が回答を寄せる傾向がある。しかも平成16年の場合、調査対象は二人以上の世帯が約55000世帯、単身世帯が約5000となっており、調査対象の構成比のうち単身世帯が、約8.3%しか占めていない。しかし本来の世帯構造を推測すると(世帯構造は次に話題になる国民生活基礎調査が調査している)、同じ平成16年で、単身世帯(単独世帯)は23.4%を占めており、世帯構造をまるで反映していない。低所得層が多い単身世帯が、あらかじめ調査対象からはじかれている。 一方、国民生活基礎調査は、調査の回収対象は約45000世帯、うち所得に関する調査は約7000世帯。調査員が調査票を配布し、面接聞き取りの上、調査票に記入する。以上が、基本的な違い。大村氏らは調査対象が少ないなどと言っていたが、OECDは元データの信頼度を勘案し、国民生活基礎調査のほうを選択したと思われる。

このデータの違いによってOECD対日経済審査報告は所得格差を過大に計測してしまったか。そうではないことを、日本総研「Business&Economic Review」2006年10月号で太田清氏が多面的に検証している。そのレポートのまとめ部分は非常に重要だと思っているので、引用する。

OECDが分析したように、日本では個人間の可処分所得の差は小さくなく、とくに(相対的な)低所得層は少なくないのではないか。また労働年齢層で実際に働いているなかにも低所得者が少なくない。この原因は主に税等による所得再配分が小さいことにある。また欧州諸国との比較では家族政策に関わる措置が小さいことも日本で低所得者が多いことと関わっている。(略)
日本が先進国のなかで、不平等な方であり、貧困率相対的貧困率)が高いというのは、比較的以前からそうだったのであり、最近急激に順位を上げたのではない。しかし、90年代後半以降には格差が拡大した。この格差が拡大した原因は、再分配というよりも、労働市場にある。労働年齢層の間で格差が拡大した。とくに政策的に問題になるのはフリーター化など非正規労働の増加である。

ところで、朝生で「ちょっと待て、いま田原がいいこと言った」と思ったのが、テレビ業界内の格差社会にふれたこと。生テレビのスタッフにもフリーランスはいるし、その待遇たるや局員と比べれば、貴族と奴隷ほどの差があるはずだ。マスコミは、公務員の次に必ずターゲットされるべき既得権構造の中にいる。自身の娘もテレビ局員なのに、トリックスターとしてふるまう田原氏は面白かった。もしただの人が正論を発言しても、次からはお役御免だ。なかなか電波にのらない発言なのだ。