公共事業と補助金の規模はどれくらいだろうか

大きな政府小さな政府」論は市場にどれだけ政府関係のお金が投じられているかにもよる。まず日本の公共事業の額から見てみよう。財務省のHPに、社会資本整備(公共投資関連予算の内訳および推移)という資料がある。予算編成で、歳出総額が80兆円を切ることで話題になった平成18年度の場合、7兆8785億円、前年度比で3935億円下回る予算となっている。この数年、公共事業費はは対前年度比3〜5%の急ピッチで削減が図られている。小泉政権で公共事業費の削減が急速に進んだのがうかがえる。


■各論3.社会資本整備(財務省
http://www.mof.go.jp/jouhou/syukei/sy014/sy014q.htm


公共事業費とは、正確にはこの社会資本整備費から、社会保障・文教関連などの施設費を引いた額を指す。公共事業と言えば、道路、ダム、空港の建設をイメージしがちだが、その内訳をみると、意外にも住宅都市環境整備がトップ。以下、 道路整備、 下水道廃棄物処理、 治水治山、 農業、 港湾・空港・鉄道、 森林・水産などといった順になっている。いずれ、この内訳の経年変化を追ってみる必要がある。


公共事業費の国際比較といえば、GDPに占める公共事業費の割合を比較したOECDの national accounts が引かれていることが多い。この財務省のHPでもそれが使われている。そのグラフを見るとやはり日本の公共事業費は一貫して高い水準にある。この財務省のグラフでは、なぜか日本のグラフだけ国民経済計算からのものを使っていてOECDのものを使っていない。もしかしたら、もっと諸外国と乖離があるのかもしれない。公共事業費の国際比較をめぐっては、環境省のHPに、超長期ビジョン研究会において、広井良典氏が配布した資料も公開されており、その中にも、2004年の対GDPのものが出てくる。日本は5%弱アメリカ、フランスは3%強、イギリス、ドイツは1%強となっている。


■第5回 超長期ビジョン検討会 議事次第・配付資料(環境省
http://www.env.go.jp/policy/info/ult_vision/com05/
http://www.env.go.jp/policy/info/ult_vision/com05/ext02-2.pdf


ちなみに、広井は日本の社会保障費が低い水準でよかった理由は、社会保障的な見えないセーフティネットが働いてきたこと(例えば「社会保険」を通して相当額の税が投入されている)、1970年頃から公共事業が発達してきたこと、二つの特徴があるとみている。広井は後者を公共事業的社会保障と呼んでいる。高度成長期以後の日本が、公共事業型社会保障を実現したという考え方は、田中角栄以後の戦後日本では「社会主義革命が実現した」とする見方と同じ発想に立つものだ。


次に、補助金について考えてみる。補助金小泉政権ではじまった三位一体改革で廃止や削減の対象になった領域である。もともと当ブログの考察は、新たなセーフティネットの原資はどこから調達するのか、という発想から出発した。ほぼ個人にお金が渡る社会保障給付とは違って、補助金地方公共団体や、なんらかの団体・企業など、法人の行う事業を経て、人々にお金が行きわたる。公共事業費の支出は、単にコンクリートアスファルトといった資材費だけではなくて、人件費も含まれたものが、現業団体へ配分される。つまり、これも公共事業的性格を持つものである。公共事業型社会保障は、予算上の公共事業に限らず、補助金を通して実現されてきたものも含むものと考えていいだろう。


補助金は、国の予算でも、公共事業関係費と別立てになっている。しかし改めて言うが、実態は公共事業的性格をもっている。この部分は社会保障社会福祉を考える学者らは議論の遡上にあげることは少ない。政治学の領域だと思われがちだからだろう。しかも泥臭い政治の現場にいる人間らが、しばしば話題にする領域である。ここにも新たなセーフティネットの原資をもたらす無駄がきっとひそんでいる。思い出すのは、田中康夫氏が脱ダムの意義を語るときしばしば話す、多目的ダム建設は地方自治体が建設主体であっても、5割が国庫負担、残りの5割が県費。うち95%に起債または借金が認められ、その償還時にも交付税措置で66%は国からお金が下りてくる、つまり総額の約8割を国庫が補助金によって負担してくれる、といった補助金漬けの構造だ。このため地方の公共事業がなかなか止まらない。(つづく)