日本では税による所得再分配が機能していない

livedoor ニュース - [所得再分配]日本は欧米と比べ低所得層に恩恵薄い
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 内閣府経済社会総合研究所の太田清特別研究員(日本総研主席研究員)が5日までに、「日本では税や社会保障による所得再分配の恩恵が欧米と比べ低所得層に薄い」と指摘するリポートをまとめた。

 リポートは、日本は税金や社会保障負担を引く前の所得では欧米平均より格差が少ないが、所得再分配した後の可処分所得では格差があまり改善しないと指摘。日本の税・社会保障の負担率は、低所得層では欧州並みだが、平均世帯年収が500万円以上の層では欧州より低いことが原因。ドイツでは再分配により低所得層の所得と平均所得の格差は20.5%も縮小したが、日本では、米国の5.4%より小幅の2.0%の改善にとどまるという。

 経済協力開発機構OECD)の00年時点の調査によると、所得がその国の平均的な水準の半分に満たない人口の割合を示す「相対的貧困率」は、日本は米国に次いで第2位。

 太田氏は「現在の日本の所得再分配の制度は、低所得層に恩恵が薄く相対的貧困率を高めている」と見ている。このため、所得が一定水準以下の低所得層に、基本的な生活に必要な額と収入との差額のうち一定割合の金額を給付する「負の所得税」導入などを提案する。「負の所得税」は、生活保護と比べて勤労意欲をそがない利点があるとされ、米国、英国、オランダなどで「勤労所得税額控除」として導入された例がある。【尾村洋介】

昨年夏のOECD対日経済審査報告の内容が翻案され、ようやく政府でもオーソライズされるようだ。内閣府小泉政権時代、去年に至ってもなお、格差拡大を過少評価する発表をしていた(その後、労働経済白書が格差拡大を認めた)ので、極めてまっとうな内容の対日審査報告に沿ったリポートをまとめる人が、政府のメインストリームにいることは喜ばしい。対日審査報告にあった日本の相対的貧困率が00年段階で先進国中2位というのは、けっこうショッキングな情報だったので、それを疑う向きもあったようだが、太田氏は日本総研の「Business&Economic Review」2006年10月号で、その調査が妥当であることを検証している。ただその対日審査報告で最も重要な部分は、格差拡大の原因は「労働市場における正社員と非正社員の二重性」にあるという指摘であり、しかも現在の「正社員に対する雇用保障が手厚すぎる」という部分にこそある。この指摘は現在、経済財政諮問会議労働市場改革専門調査会で会長を務める八代尚宏氏の持論と合致している。巷では彼に御用学者とレッテルを貼る向きもあるようだが、彼が労働市場改革のメインストリームにいることは、格差拡大を押しとどめるための希望であることを、理解していない人が多い。彼の従前からの主張は最終的なところで財界人らと分岐する。


太田氏の報告に書かれているという税による再分配が機能していないという主張は、もともとそういった分析の結論部分であって、原因も同じぐらい強調して記述されなければならない。「負の所得税」など出口戦略となる政策的インプリケーションを語るにあたっては、税制の機能不全を強調すればいいのかもしれないが、本来は原因である(固定的な)「労働市場の二重性」こそ問題として意識されるべきポイントだ。この記事を読んで気になるのは、この報告が内閣府社会総合研究所のサイトにいまだアップされてないこと。最近、政府の情報はマスコミを通してではなく、国民に直接発信されるものが多くなっているのに、残念だ。マスコミにまずはリークされるかたちで国民に情報が伝わる場合は、一定の意図があって情報が流れている場合もあるので、その意図を勘ぐってしまうし、注意も必要だ。でも、ひとまずは、この報告の示唆が重んじられることを望む。


追記(1月26日):上記エントリー中、この報告が公開されてないとした部分は、後に公開されていたことが判明したため、取り消し、訂正します。リンクは以下です。


ESRI,ESRI Discussion Paper No.171 日本の所得再分配―国際比較でみたその特徴
http://www.esri.go.jp/jp/archive/e_dis/e_dis180/e_dis171.html